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血管性認知症とは?原因と症状

更新日:2022/08/03

記事監修

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
繁田 雅弘 先生

血管性認知症はアルツハイマー型認知症に次いで多い認知症です。脳梗塞(脳の血管が詰まる)や脳出血(脳の血管が破れて出血する)など、いわゆる脳卒中(脳の血管障害)にともなって引き起こされます。脳の障害される部位に応じてさまざまな症状が生じるのが特徴です。症状が出たり出なかったりする場合があり、「まだら認知症」と呼ばれることもあります。

原因:脳出血や脳梗塞などで発症

血管性認知症は脳梗塞や脳出血などが原因で発症します。血管が詰まり血流が不足している領域の神経細胞の機能が失われたり、出血によってたまった血液に脳が圧迫されたりすることでさまざまな症状が現れます。厚生労働省研究班の疫学調査によると、全認知症のうち血管性認知症は19.5%を占めています1

脳に起こる血管障害

脳出血:脳の血管が破れて出血する。 拡大する

参考文献2より作成

年齢

血管性認知症は60歳~70歳台の男性に多い傾向があり、加齢は危険因子の1つです。

遺伝

国の指定難病のCADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)のように血管性認知症を引き起こす遺伝性の病気もあります。しかし実際に診断された人は約200名とされ3、遺伝により血管性認知症を発症することはほとんどありません。

生活習慣

運動不足や喫煙、肥満、大量の飲酒などの身体に良いとはいえない生活習慣は脳卒中の危険因子です。生活習慣の乱れは、血管性認知症の発症リスクを高めます。

病歴

糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の人は、そうでない人に比べて脳卒中になりやすく、血管性認知症を発症するリスクも高いといえます。

教育歴

詳しいことはわかっていません。

症状:障害される部位に応じてさまざまな症状が生じます

もの忘れのほか、見当識障害や実行機能障害など、アルツハイマー型認知症などでもみられる症状が生じます。パーキンソン症状や歩行障害、嚥下障害、排尿障害などの身体的な症状に加え、抑うつや感情失禁(突然泣き出したり、笑いだしたりする)などが起こることもあります。障害される脳の領域によって、これらの症状が生じたり、生じなかったりするのが血管性認知症の特徴です。

検査:頭部MRIやCTで梗塞や出血がみられます

神経心理検査

医師の質問に回答したり、図形などを描写する認知機能検査を行います。血管性認知症では記憶や実行機能、言語、視空間認知などに障害が認められることがあります。

画像検査

頭部MRIやCTでは、前頭葉や側頭葉、後頭葉、視床、海馬など認知機能に関わる部位に梗塞や微小出血(細い血管からのわずかな出血)などが認められます。脳の血流の状態を画像化する脳血流SPECT検査でも、梗塞のある領域で血流の低下がみられます。
問診について
検査について

経過:発作後に認知症を発症した場合は階段状に進行

血管性認知症の症状の進み方

脳出血や脳梗塞の後、急激に発症し、その後も脳出血や脳梗塞にともない症状が階段状に進行していきます。 拡大する

脳出血や脳梗塞の後、急激に発症し、その後も脳出血や
脳梗塞にともない症状が階段上に進行していきます。

脳卒中の発作後に認知症を発症した場合は、階段状に症状が進行していきます。症状が出現あるいは悪化した後は、しばらくその状態が維持され、一時的な改善がみられることもあります。しかし、再度梗塞や出血が起こると一気に症状が進みます。
大きな発作はなく、小さな梗塞や出血が多発して認知症の症状が出ている場合は、階段状の経過をたどらないこともあります。ごくわずかな症状の悪化が連続している状態であり、全体として緩やかに進行しているようにみえます。

治療:薬による治療と合わせて生活習慣の改善を

余命

発症後の平均生存期間はアルツハイマー型認知症よりも短いという報告もあります4が、血圧のコントロールを厳格に行うなど、脳出血や脳梗塞の再発予防に努めることで、予後の改善が期待できます5。転倒による骨折・寝たきりをきっかけにした心肺機能の低下や誤嚥による肺炎が予後を左右しますので、この点にも留意する必要があります5。​

薬物治療

脳卒中のリスクを高める糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある場合は、それぞれに対応する薬物治療を行います。脳卒中そのものの予防に血液を固まりにくくする薬や、血圧を下げる薬を用いることもあります。血管性認知症はアルツハイマー型認知症を合併していることも多く、その場合は抗認知症薬が使われることもあります。

非薬物治療

認知症の進行や症状の悪化を招く脳卒中の発作を予防するため、規則正しい食生活や運動、禁酒、禁煙などの生活習慣の改善を行います。歩行障害による転倒を防ぐために自宅の環境を見直す、感情失禁に対しては冷静さを失わずに相手の話に耳を傾けるなど、個々の症状に合わせた対応も大切です。
認知症の治療(薬物療法・非薬物療法)

(参考文献)
1,厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究​
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書
2,厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-006.html(最終閲覧日:2022年10月24日)
3,厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000085354.pdf(最終閲覧日:2022年4月8日)
4,日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン2017,医学書院,p.316,2017
5,中島健二 他:認知症ハンドブック,医学書院,p.796,2013

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