認知症の予防と対策、食事や運動に気をつけよう!

更新日:2022/08/05

記事監修

筑波大学附属病院 精神神経科 教授
新井 哲明 先生

認知症は多くの場合、現在の医療では完治させることはできません。しかし、症状がごく軽度のうちに認知症の兆候に気づき、適切な予防を行うことで、認知症の発症を遅らせたり、認知機能を維持できる可能性があります。ここでは認知症予防の考え方や有効な対策について紹介します。

認知症の予防の考え方

一般的に病気の“予防”は、一次予防、二次予防、三次予防に分けられます1

一次予防(発症させない)

認知症を発症させないための予防対策です。認知症の危険因子である生活習慣病の予防や運動不足の解消に努めるなどして、認知症になるリスクを減らします。

二次予防(発症を遅らせる)

認知症の発症を遅らせる予防対策です。ごく軽度の認知機能の低下などが認められる段階で、生活習慣の見直しなどを行い、認知機能の維持や改善をめざします。

三次予防(進行を遅らせる)

すでに認知症が発症してしまった後に、認知機能を維持したり、進行を遅らせたりするための予防対策のことをいいます。

認知症予防に有効な対策は?

認知症の発症や進行を遅らせることが期待できる対策は、運動や健康的な食事、社会的な孤立を防ぐなどさまざまな方法があります。まず浮かぶ疑問は、何からやればよいのか、いつまでやればよいのかということでしょう。大切なのは、これらの対策はどれか1つを一定期間行えばよいわけではなく、複数の対策を継続的に行うことです。

包括的な予防対策の実践で認知機能の改善が期待―FINGER試験

認知症の危険因子として運動不足や食生活の乱れ、生活習慣病の管理不徹底などが挙げられます。これらのリスクに対して包括的な対策を行うことで、認知機能の改善が期待できることを示した試験があります。フィンランドで2009年から2011年にかけて実施された「FINGER試験」という介入研究です。
FINGER試験の対象者は、認知症のリスクがやや高い高齢者(平均年齢68歳)1260人です。集中的に介入するグループと健康に関する一般的な助言だけを行うグループとに分け、それぞれの認知機能の推移などを2年間観察しました。介入グループに対しては以下の4つを行っています。

  1. 栄養カウンセリング
    (栄養に関する個別指導や目標設定、バランスの良い食生活)
  2. 運動
    (週に数回の筋力トレーニングと有酸素運動)
  3. 認知トレーニング
    (グループセッションとコンピュータによる脳のトレーニング)
  4. 代謝・血管性リスクの管理
    (定期的に血圧、体重、BMIなどを測定)

介入を開始する前と、1年後、2年後に認知機能などについて評価を行いました。2つのグループの結果を比較したところ、介入グループの神経心理学的検査の総スコアや実行機能、処理速度は有意に改善していました。この結果は、包括的な認知症予防対策が認知機能の改善や低下の抑制につながる可能性を示すものといえます2

FINGER試験はThe Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disabilityの略称です

12項目の認知症リスクと具体的な予防対策

ここで紹介した栄養管理、運動、生活習慣病の予防、管理などの対策は実際にはどのように行うとよいのでしょうか。そこで参照したいのがWHO(世界保健機関)がまとめた『認知機能低下および認知症のリスク低減』のためのガイドラインです。12項目の認知症のリスクとそれに対する具体的な対策が提示されています3

認知症予防はいつから?

海外の論文によると、認知症には12のリスク因子があり、それぞれのリスクに合わせた生活習慣の改善などを行うことで、認知症の発症リスクを減らすことができると報告されています。この報告では、それぞれのリスク因子がどの時期にみられると認知症の発症リスクが増すか以下のように分類しています。

若年期(45歳未満):低教育歴
中年期(45~65歳未満):難聴、頭部外傷、高血圧、飲酒過多、肥満
高齢期(65歳以上):喫煙、抑うつ、社会的孤立、運動不足、大気汚染、糖尿病

教育歴を除く11のリスク因子は、中年期以降にみられた場合に認知症のリスクを高めるとされています4。つまり、生活習慣の見直しや適度な運動、健康的な食生活など、45歳以降にこのようなリスクが生じない、あるいはなくすような生活を心掛けることが、認知症の発症リスクを減らすことにつながるといえるのです。
また、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβ蛋白は、認知症を発症する10〜20年以上も前から脳内で蓄積し始めているといわれています5。たとえば65歳で発症したとするなら、45歳の時点ですでに脳の変化が始まっていたと考えられるわけです。この点を考慮しても、中年期というのが認知症予防を始める1つの目安といえるかもしれません。

発症を遅らせるカギは早期発見

認知症は多くの場合、発症前の状態に戻ることはありません。ですが、先ほど二次予防について触れたように、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の時期に予防を始めれば、発症を遅らせることも可能です。以前と比べてもの忘れが増えたなど「何かおかしい」と感じたとき、早めに専門家に相談することが、認知機能の維持あるいは改善が期待できる段階で認知症予防を開始するカギになります。

自分らしく穏やかに日々を過ごすために

認知症を発症した後の「三次予防」も大切です。認知症の進行を遅らせることができれば、できなくなることが増えるまでの期間を長くすることが可能です。予防を通して心身ともに健やかな状態を保つことが、認知症の行動・心理症状(BPSD)の予防や改善につながることもあります。自分らしく穏やかな日々を過ごすためにも、発症した後も運動や健康的な食生活などを心掛けることが重要です。

(参考文献)
1,新井平伊:医療と社会 2022; 31(4):481-494
2,Ngandu T, et al.: Lancet. 2015; 385:2255-2263
3,WHOガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』
日本語版 https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20200410_theme_t22.pdf(最終閲覧日:2022年5月16日)
英語版 https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/1257946/retrieve(最終閲覧日:2022年5月16日)
4,Livingston G, et al.: Lancet. 2020 Aug 8; 396(10248): 413-446
5,Sperling RA et al.: Alzheimers Dement. 2011;7(3):280-292

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