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認知症の検査で使われる「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」の特徴

更新日:2023/3/27

記事監修

聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室 教授
笠貫 浩史 先生

認知症の診断をする際には、問診のほかにも頭部の画像検査や認知機能検査などを行います。認知機能障害についてスクリーニングをする検査の一つが「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」です。このスケールは短時間で実施することができて、さらに信頼性も高い検査であることから、国内の多くの医療・介護現場で用いられています。この特徴について解説します。

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは

HDS-Rは、認知症診療の第一人者でおられた医師・長谷川和夫先生(1929-2021)が開発した認知機能検査です。正式名称は「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」ですが、「長谷川式(認知症)スケール」「長谷川式」などと呼ばれることがあります。
記憶を中心とした認知機能障害について調べるスクリーニング検査で、9つの質問から構成されます。それぞれの質問には1~6点が配点されており、計30点満点です。点数が20点以下の場合に「認知症の疑いがある」とされます。検査時間は5~10分程度で、比較的短時間で行うことができます。ただし、HDS-Rの点数だけで認知症の診断はできません。HDS-Rはあくまでも「認知症の疑いがあるかどうか」の目安をつける目的のスクリーニング検査です。認知症の診断は、問診や診察、頭部の画像検査(CT、MRI、脳血流SPECTなど)、場合によってはPET検査や髄液検査などの精査も行い、それらの結果を総合的に踏まえて行われています。

HDS-Rの評価項目

HDS-Rでは以下の9項目について評価を行います。

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の9つの質問項目

評価項目 点数
1.年齢 1
2.日付の見当識 4
3.場所の見当識 2
4.即時記憶 3
5.計算 2
6.数字の逆唱 2
7.3つの単語の遅延再生 6
8.5つの物品課題 5
9.言語の流暢性 5
合計点数 30

出典:加藤伸司ほか:老年精神医学雑誌 1991; 2: 1339-1347

それぞれの質問で、どのような評価を行っているかは以下のとおりです。

1.年齢(1点)

「自己」に関する見当識を評価しています。

2.日付の見当識(4点)

「日時」(年月日と曜日)の見当識を評価しています。

3.場所の見当識(2点)

「場所」(自分がいまどこにいるのか)の見当識を評価しています。

4.即時記憶(3点)

直前のことをどれだけ覚えているかを評価します。

5.計算(2点)

簡単な計算能力、「その答えを覚えておくことができるか」という短期記憶、そして「その答えを覚えておきそこからさらに同じような計算を行う」という作業記憶(ワーキングメモリー)を評価します。

6.数字の逆唱(2点)

直前に提示された情報を記憶し、それに基づいて課題や作業を行う作業記憶(ワーキングメモリー)を評価します。

7.3つの単語の遅延再生(6点)

「数分前に覚えたことを記憶にとどめていられるかどうか」という近時記憶を評価します。

8.5つの物品課題(5点)

直前に覚えたことの短期記憶、また目で見て覚えたことをどれだけ記憶していられるか(「視覚記銘力」)を評価します。

9.言語の流暢性(5点)

「言葉がすらすらと出てくるかどうか」を評価しています。野菜の名前をどれだけ知っているかを確認するものではありません。

HDS-Rの判定方法

HDS-Rの最高点は30点です。検査の信頼性は、カットオフポイント(正常であるかそうでないかの分かれ目となる点)を21/20点としたときが最も高いとされています1。教育歴やうつ病の合併、その日の気分や体調なども結果に影響を及ぼしますが、原則として20点以下だと「認知症の疑いがある」という判定になります。

そのほかの認知機能検査との違い

HDS-Rの特徴としてはまず、「短時間で検査を行えること」が挙げられます。所要時間は5~10分程度です。また、紙と鉛筆を用いて答えるような「動作性課題」と呼ばれるタイプの検査項目を含まない点も特徴です。そのため、手の麻痺がある患者さんや、運動障害がある人でも検査を受けやすいようになっています。
また、HDS-Rには物のかたちを立体的に捉える「視空間認知機能」を評価する課題が含まれません。この機能を評価する必要があるときには、HDS-Rに追加して「立方体模写」や「時計描画テスト(Clock Drawing Test、CDT)」などが実施されます2
HDS-Rのほか、もの忘れ外来でよく行われる認知機能検査として「ミニメンタルステート検査(MMSE)」や「日本語版MoCA(MoCA-J)」などがあります。

ミニメンタルステート検査(MMSE)

MMSEは世界中で使用されている認知症のスクリーニング検査です。質問項目はHDS-Rより多く、計11項目で構成され、動作性課題も検査項目に含まれています(MMSEに含まれる項目:①時間の見当識②場所の見当識③単語の即時再生④単語の遅延再生⑤計算⑥物品呼称⑦文章復唱⑧3段階の口頭命令⑨書字命令⑩文章書字⑪図形模写)。30点満点中23点以下で認知症疑い、27点以下で軽度認知障害(MCI)疑いとなります3
見当識や即時再生、遅延再生など課題の多くはHDS-Rと共通します。異なる点としては、書字や図形模写など動作性の検査が含まれていることが挙げられます。

日本語版MoCA(MoCA-J)

MoCA-Jは認知症のみならず軽度認知障害(MCI)をスクリーニングする能力にすぐれた認知機能検査です。質問項目には注意機能や集中力、実行機能、記憶、言語、視空間認知、概念的思考、計算、見当識といった多様な認知機能の働きをスクリーニングする内容が盛り込まれています。検査所要時間は約10分です4。日本語版では30点満点中26点以上が正常範囲とされ、25点以下で「MCIの可能性あり」という判定になります4

HDS-Rのことをきちんと知ってサポートに活かしましょう

先に述べたようにHDS-Rは短時間で実施できることから、医療・介護現場でも広く用いられています。HDS-Rの特徴や検査方法を正しく知っておきましょう。スクリーニング検査の結果は診断の参考になるだけではなく、その後のご本人のサポートを考えるための大切な手掛かりにもなります。HDS-Rをきちんと知って、上手に活用できるように心がけていきましょう。

(参考文献)
1,加藤伸司.: 老年精神医学雑誌. 2018; 29: 1138-1144
2,河月稔.: 医学検査. 2017; 66(J-STAGE-2): 11-21
3,一般社団法人 日本老年医学会 認知機能の評価法と認知症の診断 (https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html 最終閲覧日:2022年11月6日)
4,日本語版MoCA(MoCA-J)教示マニュアル (https://s50b45448262f1812.jimcontent.com/download/version/1558490455/module/11363501891/name/MoCA-Instructions-Japanese_2010.pdf 最終閲覧日:2022年3月13日)

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