「サービスは利用しなければならないのか」認知症の相談事例

更新日:2021/12/08

記事監修

角田とよ子さんの著書
『介護家族を支える電話相談ハンドブック ―家族のこころの声を聴く60の相談事例―(中央法規出版)』から一部抜粋

相談者
娘Kさん/50歳台
母と20歳台の娘との三人暮らし
介護対象者
母/80歳台
認知症で要介護4

相談内容

母はきつい性格で、かわいがってもらった覚えがありません。10年前、私は離婚して娘を連れて実家に戻りました。私たちを温かく迎えてくれた父が急死したとき、母は私のせいだとなじりました。
その後、母に認知症の症状が出たのですが、病院嫌いなので私と娘で面倒をみてきました。2~3年前からは昼も夜も徘徊し、暴言や暴力もあるという地獄の日々になり、私は精神的にまいってしまい、精神科に通いました。
半年前、母は転倒して腰を打ち、立ち上がれなくなりました。病院に連れて行こうとすると嫌だと暴れるのでそのままになってしまい、それ以来一人では歩けなくなりました。
2か月ほど前に、地域包括支媛センターの人が来て要介護認定を勧められ、言われるままに申請しました。認定調査があり、医師も往診に来て、要介護4と認定されました。それ以来、担当になったというケアマネジャーは、訪問介護、リハビリテーション、入浴サービス、デイサービスなどを次々に勧めてきます。昨日は、往診に来た医師が突然訪ねて来て、「これからは月に2回往診します」と言ったので驚いてしまいました。ケアマネジャーと医師は「母のために」と言いますが、これまでさんざん苦労してきて、やっと母が寝たきりになって今は天国なのだから、このまま放っておいてもらいたいのです。

  • 「かわいがってもらった覚えがない」と、母親に対して複雑な思いがある
  • 介護疲れで精神科に通っていた
  • 次々にサービスが提案され、とまどいと怒りを感じている

相談員の対応

Kさんは、娘と二人きりで認知症の母親をみてきたこと、転倒をきっかけに 母親は一人で歩けなくなってしまったことなどを矢継ぎ早に話しました。かわいがってくれなかった母親への複雑な思いに配慮しながら、ていねいに話を聴きました。
母親のBPSD(行動・心理症状)がひどかったときにうつになったと間き、「どれほどご苦労されたことか」とこころからねぎらいました。また、母親を受診させられなかったことに負い目を感じていたので、「女性二人で病院に連れて行くのはむずかしかったと思いますよ」とそのときの情景を想像しながら言いました。
Kさんは、次々にサービスを勧めてくるケアマネジャーと医師への不満を訴えます。苦労を重ねてきた自分の気持ちが置き去りにされ、とまどいと怒りを感じているようすでした。その気持ちを受け止めながら話を聴きました。ケアマネジャーは、認知症の母親をどうにかしなければという職業意識で先走ってしまったのではないでしょうか。そこで、「介護保険サービスは本人と家族をサポー卜するもので、家族の意向を踏まえて計画を立てます。利用したくなければ断ればいいし、利用しようと思ったら遠慮しないで要望を伝えるといいですよ」と助言しました。
Kさんは、母親が寝たきりになった今が天国だと言いましたが、地獄のような日々に比べればということであり、「放っておいてほしい」と言いながら相談の電話をしてきたのは、助けてほしいというサインではないかと思いました。
今後は地域の介護者支援ネットワークにつながってほしいと願い、「地域包括支援センターとパイプができてよかったと思います。いざというときに連絡できる専門家を知っていると安心ですよ」と伝えました。「娘さんと一緒に、あなたの身体をいたわりながら介護してくださいね」と言うと、Kさんは安心したように「また相談させてください」と言いました。

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