アルツハイマー病を知る

アルツハイマー病の症状

進行状況と認知症の症状

アルツハイマー病によって認知機能がどのぐらい低下し、どのような認知症の症状があらわれるかは、病気の進行状況(脳の変化の程度など)に応じて異なります。

「脳の変化と認知機能・症状」をまとめた表。詳細は後述で説明。
服部光男 監修:全部見える 脳・神経疾患―スーパービジュアル 徹底図解でまるごとわかる!(成美堂出版), 2018, p.38 / 中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.566-568 / 医療情報科学研究所 編集:病気がみえる vol.7 脳・神経(メディックメディア), 2017, p.435 / 池田学 編集:認知症 臨床の最前線(医歯薬出版), 2012, p.148-149 を元に作成

中核症状と精神症状・行動障害(BPSD)

アルツハイマー病の症状は大きく2つに分けられます。

中核症状

すべてのアルツハイマー病にあらわれる症状です。初期には「最近の出来事が思い出せない(近時記憶障害)」「日付や曜日を正しく答えられない(時間的失見当識)」といった症状がみられます。

精神症状・行動障害(BPSD)

アルツハイマー病の一部にあらわれる症状ですが、病気の進行度合いによって目立つ症状は異なります。初期からみられる頻度が高いのは「意欲の低下」「物盗られ妄想」などです。

中核症状の種類と特徴

記憶障害

アルツハイマー病の初期にみられる「近時記憶障害」では、昔の記憶は保たれるものの、最近の出来事が思い出せない、新しいことが学習できないなどの症状があらわれることがあります。

時期 症状
初期
  • 物をおいた場所を忘れる
  • 出来事自体を忘れる
  • 約束を忘れたり、何度も同じことを話す
中期
  • 日本の首都が「東京」であることなど一般的知識を忘れる
  • 番号を聞いてすぐ電話したり、復唱するのが困難になる
  • 学生時代の出来事を忘れてしまう
進行期
  • 家事など、体得した技術や習慣も忘れる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

見当識障害

「見当識」とは、「今がいつか(時間)」「ここがどこか(場所)」「目の前の人が誰か(人物)」など、自分が置かれている状況を把握する能力のことです。「見当識障害」では、時間→場所→人物の順番に認識ができなくなることが多いです。

時期 症状
初期
  • 日付や曜日を正答できなくなる(時間的失見当識)
中期
  • 自宅を含め自分のいる場所を認識できなくなる(場所の見当識障害)
進行期
  • 家族のこともわからなくなる(人物の見当識障害)
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

視空間機能障害・失行

私たちは目で見た情報を脳の中で分析して方向、距離、位置などを把握します。このようなことができなくなった状態を「視空間機能障害」と呼びます。
また、それまで当たり前にできていたことを1人で行うのが難しくなることを「失行」といいます。
アルツハイマー病の初期には、図形を書き写すのが難しくなるなどの障害がみられ、進行すると家の中でも迷ったり、着替えや入浴ができなくなったりします。

視空間機能障害

時期 症状
初期
  • 位置関係が把握困難になり、図形の描写などがうまくいかない
中期
  • 外出先でも帰宅困難になる
進行期
  • 近所や家でも迷う

失行

時期 症状
初期
  • 図形の模写が困難になる(構成障害)
中期
  • 着衣失行、観念失行※1、観念運動失行※2などがみられる

※1歯ブラシなど日常的に使うものが何かは理解できるが、実際に歯ブラシを渡しても正しく使えない状態。

※2「さようならの時のバイバイ」や「じゃんけんのチョキ」などの習慣的動作や 「歯磨き」などの日常生活の動作を自発的にはできるが、言葉で指示されるとできず、またまねることもできない状態。

進行期
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

遂行機能障害

「遂行機能」とは、目標を設定して計画を立案し、実際に行動して効果的に成し遂げる一連の機能です。アルツハイマー病の初期には作業が遅くなる程度ですが、進行期にはセルフケア(日常生活の自己管理)が困難になります。

時期 症状
初期
  • 周囲からみて作業が遅くなったと感じる程度に、段取り、要領が悪くなる
中期
  • 手段的ADLが困難になり、料理などの家事、仕事、ATMの操作を含めたお金の扱いなどがうまくいかなくなる
進行期
  • セルフケアが困難になる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

※手段的ADL(手段的日常生活動作)
「基本的ADL」が食事、更衣、トイレ、入浴などをさすのに対し、「手段的ADL」は買い物、薬の管理、財産管理、乗り物など、日常生活上の複雑な動作をいいます。

言語障害

言語障害が進むと言葉によるコミュニケーションがうまくいかず、社会生活や介護に支障をきたすようになります。

時期 症状
初期
  • 適切な言葉がなかなか出てこなくなり(喚語困難)、「あれ」「これ」などの指示語が増える
中期
  • 自分から言葉を発することが減少し、言い間違い(錯誤)もみられる
進行期
  • 相⼿の⾔葉をオウム返しに言う「メガネ、ネネネネ」のように言葉の終わりを反復する、などの症状がみられる
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.526を元に作成

精神症状・行動障害(BPSD)の種類と特徴

意欲の低下

アルツハイマー病の初期からみられ、頻度が高い精神症状です。他の精神症状や行動障害に比べ介護者が深刻に感じることは少ないのですが、本人がなにもしていない状態を放置すると、寝たきりや急激な認知症の進行にもつながります。

特徴

  • 積極的に参加していた老人会の役職を退いてしまう
  • 趣味が一年ごとに少しずつ減っていく
  • 社交的であったのに外出しなくなる
  • 身の回りの整内に無頓着になる

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.88-89

物盗られ妄想

アルツハイマー病の初期からみられ、頻度が高い精神症状です。介護者が攻撃の対象になりやすく、関係性が悪くなって自宅介護が破綻することもあります。

特徴

  • 誰かに財布を盗まれたという
  • 親戚や近所の人に「うちの嫁がお金を盗った」と訴える
    財布など大切なものの保管場所を忘れてしまい、自分で見つけられないことによって生じる

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.89-90

抑うつ

抗うつ薬による本格的な治療が必要なほどの抑うつ状態がみられることがあります。老年期の発症では、うつ病との鑑別が難しくなります。

特徴

  • 若年発病の場合は、就労中の方も多く、仕事上のミスが目立ってくるのを自覚したり、職場の人間関係がうまくいかなくなったりすることで、抑うつ状態を起こすことがある

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.90-91

徘徊、興奮・不眠、誤認症状

病初期ではなく病気が進行してから増加します。

特徴

徘徊
  • 一見目的無く歩き回っているようだが、「家に帰る」「仕事にいく」などの目的があって行動している
興奮・不眠
  • 興奮や不眠が起こることがある
  • 昼夜のリズムの逆転が背景にあることも多い
誤認症状
  • 鏡に映った自分に話しかける(鏡現象)
  • テレビの映像を現実の出来事と思い込む

池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.91

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生