認知症の薬物治療

更新日:2021/12/08

記事監修

聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室 病院教授
笠貫 浩史 先生

この項では薬物療法の具体的な内容を簡単にまとめます。

1.保険適用されている抗認知症薬について

前項「認知症の治療について」では、認知症の症状が①中核症状と②行動・心理症状に整理されることを述べました。薬剤の効能として「中核症状」に有効であることが確かめられているおくすりは「抗認知症薬」とよばれ、国内では3種類のコリンエステラーゼ阻害薬と1種類のNMDA 受容体拮抗薬が承認を受けています。

コリンエステラーゼ阻害薬

神経伝達物質の一つであるアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑える作用があります。脳内のアセチルコリン濃度が上昇することで、神経細胞内の情報伝達が活発になります。

NMDA 受容体拮抗薬

アルツハイマー型認知症ではグルタミン酸が過剰に放出され、神経細胞が興奮しすぎます。この薬はグルタミン酸を受け取る受容体に作用して、神経細胞の過剰な興奮を防ぎ、病気の進行を抑制します。

認知症の原因疾患・病態はたくさんありますが、「抗認知症薬」の有効性が確認され、そして保険適用を得ているのは、アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症の二疾患についてのみです。

それぞれのおくすりには薬理作用の違いがあります。推奨される内服回数や、内服薬と貼付剤といった種類の違いなど、それぞれに特徴がありますから、どの薬剤を治療に取り入れるか、担当医師とご相談のうえ決定してください。

2.いつどんなふうに使われるか

前項でまとめたように、アルツハイマー型認知症については現在4種類の抗認知症薬が承認されています。これら4種類の抗認知症薬をいつ、どの位の量を使ったらよいか、という手順の原則については、国内の主要な認知症関連学会が編集した「認知症疾患診療ガイドライン(2017年)」に記載されています。アルツハイマー型認知症の各病期(軽度、中等度、重度)にあわせて各抗認知症薬を使い分けるということが基本的な考え方になります。
なお、軽度の認知症と「軽度認知障害」は別の状態を示していることにはどうぞご注意ください。もの忘れ外来で「軽度認知障害」と診断をされた場合には、必ずしもすぐに抗認知症薬を飲む必要があるわけではなく、運動や対人コミュニケーション、知的活動の充実といった非薬物的な認知症予防策が大切であることを医師から説明されると思います。

3.抗認知症薬以外に認知症の治療に使われるおくすり

行動・心理症状については、その症状の特徴によっていろいろな種類の薬剤が使用されます。
抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、漢方薬、睡眠薬、便秘薬などがこれに該当します。おくすりはできるだけ種類・量が少ないほうが副作用の心配がありませんし、おくすりの副作用によって認知機能がかえって低下してしまうケースもまれにあります。ですから、担当医や調剤薬局の薬剤師さんから、処方薬の内容や副作用について、説明を十分受けるようにして下さい。

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