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せん妄とは? 認知症との関係についても解説!​

更新日:2023/5/8

記事監修

聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室 教授​​
笠貫 浩史 先生

せん妄とは、急激に生じる「意識障害」の一種で、さまざまな要因によって起こる症候群です。せん妄状態のときにみられる症状にはたくさんの種類があります。とくに認知機能障害がみられるため、認知症と間違われることも少なくありません。また、認知症のひとにせん妄状態が生じることもよくありますから、慣れていないとケアにとまどってしまいます。ここではせん妄の特徴や認知症との関係について解説します。​

せん妄とは​

せん妄は、からだの病気の急な悪化や内服薬・アルコールなどの物質摂取、脳の疾患(脳腫瘍や神経変性疾患など)などをきっかけにして起こる急性の意識障害の状態を指すことばです。次項にまとめるように、せん妄状態では認知機能障害、興奮や幻覚といったさまざまな精神症状がみられます1。症状が1カ月を超えて続くことはあまりありませんが、治療・ケアがうまくいかないと長期間長引いてしまうこともあるため、せん妄について知識をもち、早めに対応することが大切です。

せん妄のときにみられる症状​

せん妄の症状は多くの場合一過性で、数日から数週間で収束します。症状の強弱は1日のうちで変動します。とくに夕方から夜にかけて悪化する傾向があります1
せん妄では精神機能に変調をきたします。注意や思考、認知機能の障害、幻覚、妄想、睡眠覚醒リズム障害、気分の変動など、多様な症状が生じます1

  • 注意の障害
    1つのことに注意し続けることが難しくなったり、意識レベルが低下した状態になることがあるほか、現実ばなれした言動などがみられます​
  • 思考力の低下​
    思考力が低下、錯乱して、意味不明な言葉を発し続けることがあります​
  • 認知機能の障害
    現在の時間や場所が急にわからなくなる見当識の障害、つい最近のことを思い出せなくなる記憶障害、言葉をうまく話せないといった言語障害などがみられることがあります
  • 幻覚・妄想
    いるはずのない人や小動物、虫などが見える幻視、現実にはないものをあるように感じる幻覚、実際にされていないことをされたと思い込む妄想などがみられます
  • 睡眠覚醒リズム障害
    昼夜逆転による不眠のために夜間に落ち着きなく動き回ったり、興奮したりします。反対に起きている日中は、寝ぼけてぼんやりした状態であることが多くなります
  • 気分の変動
    不安やイライラ、興奮したり、憂鬱になったり、内向的な人が攻撃的になったり、いつもとは人が変わったかのような気分の変動がみられます

小川朝生. 自信がもてる!せん妄診療 はじめの一歩, 羊土社,p.22-31, 2014を元に作成

せん妄の3つのタイプ

せん妄は、精神活動の活動性変化に応じて、「過活動型」、「低活動型」、「活動水準混合型」の3タイプに分けられます1,2

  • 過活動型​
    興奮して大きな声を出す、幻覚や妄想、不眠、イライラして落ち着かないなど、活動性が高く活発な症状が出ます。急にベッドから抜け出して転倒したり、点滴のカテーテルを抜いてしまったり大きな事故につながることもあるため注意が必要です​
  • 低活動型​
    ぼんやりして声をかけても反応が乏しいなど、意欲や活動性が低下します。注意力や思考力などの低下もみられます。過活動型のようにわかりやすい状態でないため見過ごされやすく、うつ病などと間違われたりすることも少なくありません​​
  • 活動水準混合型​
    過活動型と低活動型が混ざったタイプです。24時間の間に両方の症状が現れます​​

せん妄に関わる複数の要因​

せん妄をきたす要因は複数あることが多く、その要因がお互いに絡み合っていることもよくあります。事態を整理するために、以前から3つの要因に整理する方法が知られており、「準備因子」、「直接因子」、「促進因子」に分けられます3。​

八田耕太郎, 岸泰弘. 病棟・ICUで出会うせん妄の診かた. 中外医学社. P2. 2012

準備因子

「準備因子」とは、せん妄を発生しやすい素因のことです。「高齢であること」それ自体が準備因子になるほか、「慢性脳疾患をもっていること」も準備因子に含まれます。高齢の認知症のひとは、そうでない人に比べてせん妄を発症するリスクがかなり高い状態にあるといえます。準備因子のあるひとは、直接因子や促進因子を減らす対策が重要になります。

直接因子

「直接因子」とは、感染症や脳に作用する薬剤・物質の摂取など、せん妄発生の直接的な引き金となりうる因子のことを指します。せん妄を来たしやすい薬剤には、ベンゾジアゼピン受容体作動薬や三環系抗うつ薬、パーキンソン病治療薬などがあります。これらを服用している高齢者は特にせん妄発生に関する注意が必要です4。可能であればせん妄発生リスクの低い薬剤に変更することを主治医に検討してもらいましょう。

促進因子

「促進因子」とはそれだけではせん妄発生の原因にはならないものの、直接因子や準備因子に加わることでせん妄を誘発、悪化させる因子のことです。痛みや睡眠不足、非日常的な医療環境で感覚刺激が遮断されること、心理的ストレスなどが挙げられます。たとえば高齢の認知症のひとが内科的疾患の治療を受ける目的で集中治療室に緊急入院した場合を考えてみましょう。このとき生活環境は急激に変化し、モニター類や点滴などの医療的処置が身体に加わることで自由に動くことができず、痛みや苦痛を経験します。これらの影響で、せん妄が発生することは少なくありません。そのため、入院後の早い段階からせん妄予防を目的とした対応を行うことが大切です。

せん妄と認知症の違い​

せん妄は急性に発症する意識障害であり、その要因として複数の事柄が折り重なって生じます。認知症は、せん妄とは異なり、緩徐に進行する性質をもった症候群です。こうした発症・経過の相違点などに着目して、せん妄と認知症にみられるそれぞれの特徴の違いを表にまとめました5。しかし、認知症とせん妄には共通する症状、すなわち認知機能障害や妄想などがあるため、一見しただけでは区別が難しいこともあります。また前項でふれたように「認知症の状態にあるとせん妄を起こしやすい」という事情もありますから、一時点の様子・状態だけでせん妄か認知症か即断することは実は簡単ではありません。たとえばせん妄を合併している最中にそのひとに初めて接した医療者・介護者は、そのひとのことを「重度の認知症状態なのだろうか」と勘違いしてしまう可能性があるのです。せん妄を引き起こす要因を整理してケアを考えることはいずれの場合でも大切ですから、「いまこのひとにはせん妄が生じているのではないだろうか」という視点を常に持つよう心掛けましょう。​

せん妄と認知症の違い​

せん妄 認知症
発症 急性~亜急性 緩徐
経過 一過性のことが多い 一般に慢性進行性
日内変動 あり(夜間に憎悪) 少ない
意識障害 あり なし
幻覚 幻視が多い 少ない
脳波所見 全般性徐波 正常~軽度徐波

井上真一郎ほか.: がん患者と対症療法 2011; 22(1): 6-11

まとめ

せん妄とはなにか、どういったタイプがあるか、そしてせん妄の要因の整理方法をお示しし、認知症との違いについて解説をしました。実際の現場では認知症とせん妄の両者が合併することは多々あります。大切なのはそれぞれの状況に合わせてケア・対応を心掛けることです。不快な刺激を取り除く、脱水に注意する、不要かもしれない内服薬について見直しを行うなど、両者に共通するケア・対応の留意点も多いですから、両者の特徴を知ったうえで経過に応じた柔軟な対処を身につけていきましょう。​

(参考文献)
1,American Psychiatric Association. Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed. (DSM-5) 2013
2,Meagher D, et al.: J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2008 Spring; 20(2): 185-193
3,八田耕太郎, 岸泰弘. 病棟・ICUで出会うせん妄の診かた. 中外医学社. P2. 2012
4,日本老年医学会編. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. メジカルビュー社. 2015
5,井上真一郎ほか.: がん患者と対症療法 2011; 22(1): 6-11

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